「NYとクリスマスと私」 by 大屋夏南
「NYとクリスマスと私」 by 大屋夏南
My Christmas in NY

「NYとクリスマスと私」 by 大屋夏南

さまざまな行動が制限されているこのご時世。海外旅行やフェスなど、楽しみにしていたことがなかなか思うようにできないのは悲しいけれど、想像の中ではいつだってどこへでも好きな場所に行くことができる。そんなイマジネーションを刺激する「旅」や「クリスマス」にまつわる素敵なエピソードが、モデル兼プロトラベラーで「旅のときにはバックパックが欠かせない」という大屋夏南さんから届きました。

巻末では、バックパックに対するQ&Aも!
  • 大屋夏南
    モデル・プロトラベラー大屋夏南Kana Oya

    ブラジル出身。17歳でモデルデビューし、数々の人気雑誌やファッションイベントに出演。Instagram(@_kana_oya__)やYouTubeなどのソーシャルメディアでは、私服や美容、旅などライフスタイルにまつわる情報を発信。最新著書では、旅エッセイ本『Down to Earth』を出版するなど、幅広く活躍中。

空港は混雑していた。

家族連れも多く、子供たちが走り回る姿が微笑ましい。チェックインを済ませ、お気に入りのバックパックにパスポートをしまって近くのベンチに腰掛けた。いつもよりも長い冬休みを取るためにスケジュールをギュッと詰めたため連日バタバタしていたが、今年も1年を走り切って心地よい疲労感を感じていた。旅の前は決まって忙しくなるから、やっと一息つける空港は私にとってホッとする場所のひとつだ。今回はクリスマスを初めて海外で過ごす。行き先はNY

1年の中で1番楽しみにしているイベントであるクリスマスを、大好きなNYで過ごすのは昔からの夢だった。今回の旅で、ついにそれが叶う。NYでのクリスマスに憧れたのは、子供の頃に観た映画の影響だ。街中がクリスマスムード一色になって、家には暖炉の上にかかった家族全員分の靴下と大きなツリー、そしてその下に置かれたたくさんのプレゼント。「幸せな家族」というと私が真っ先に思い浮かべるのは、クリスマスの朝にパジャマのまま急いでラッピングを開ける子供たちと、それをやさしく見つめる大人たちだ。

今日はクリスマスイブ。時差を計算して、向こうでクリスマスを過ごせるギリギリの時間のフライトをブッキングしていた。機内は離れて暮らす家族に会いに行くのであろう人たちで溢れている。長いフライトにありがちな緊張感はなく、ホリデーシーズンならではのやさしい雰囲気が機内を包んでいた。私は、ぼんやりと初めてNYを訪れたときのことを思い浮かべた。

私が初めてNYを訪れたのは23歳のとき。

今は旅好きとして、その素晴らしさをみんなに伝えることをライフワークにしている私だけれど、当時はまだまだ旅の初心者。その頃の海外経験といえば、物心がついて初めての2ヶ月間のパリ生活と、それを死に物狂いで乗り越えたあとにバケーション気分で訪れたハワイくらいだった。そんな私が1ヶ月半のNY長期滞在を前に不安な気持ちがまったくなかったのは、NYという場所に強く惹かれている自分がいたからだったと思う。

NYのファーストインプレッションは「エネルギッシュで騒がしい街」だった。常にどこかで何かが起きていて、展開が早い。ここでやっていけたらどこでもやっていけるんじゃないかとさえ感じさせるタフな場所。でもそのタフさは、余計なものが削ぎ落とされたときに出る潔さや鋭さみたいなものに思え、私は「怖い」と感じるよりも正念場でアドレナリンが出てくるときのような感覚を覚えた。

街によって持っているエネルギーは違うし相性もあるけれど、当時の私はNYのエネルギーを必要としていたと思う。パワフルで、フレッシュで、エキセントリックで、どこかチャーミング。あんなにたくさんの刺激がもらえる街に20代前半という、多くのことを吸収しやすい時期に行かせてもらったことは今でも本当に感謝している。あの1ヶ月半はその後の人生を大きく変えるターニングポイントでもあり、人生で最もエキサイティングな1ヶ月半だった。

私が自分というものを探求することや、自分の欲求を叶えることの大切さを学んだのはNY。いろいろな人種や文化が混在し、一見カオスっぽく見えるのにそれが絶妙なバランスで保たれているのは、ルーツがどこであれそれぞれのアイデンティティを大事にするカルチャーが根付いているからなんだと思う。ブラジルと日本のミックスとして2つのカルチャーを持って育った私は、小さな頃から自分が何者なのかわからないアイデンティティクライシスみたいなものを感じていた。そんな私がNYで過ごす中で「私は私のままでいい。どちらかを選ぶ必要もなければ、自分以外の誰かのふりをして溶け込もうとする必要もない。このままでいいんだ。」と気づき、そのときに生まれた芯みたいなものは、今も自分の軸となっている。

着陸のアナウンスが鳴り、座席を元の位置に戻す。久しぶりの長いフライト。大きな伸びをして窓の日よけを上げてみた。外に見えるマンハッタンはやっぱりカッコよくてゾクゾクした。建物がびっしり詰まった小さな島には、限りない可能性が詰まっている。いつもより空いている入国審査を終えて荷物のピックに向かった。こんなにがらんとしたJFK空港を見るのは初めてかもしれない。外に出るとひんやりとした空気が気持ちよく、遠くで聞こえるせっかちなクラクションに「ああ、NYに帰ってきた」と感じた。

タクシーのトランクに荷物を入れてシートに深く座る。今日もドライバーは誰かと電話をしていた。日本ではありえない光景だけれど、NYのタクシードライバーは大抵誰かと話しながら運転していて、一日中話題があること、その相手がいることにも私は関心をもってしまう。

ホリデーシーズンに入っているため、道も比較的空いていた。何度も通っている馴染みのルートだけれど、やっぱりブルックリンブリッジを通るときは心が躍る。初めて来たときもそうだった。大好きな人に会いに行く前の緊張とドキドキが混ざったような、そんな気持ち。

大抵は現地の友達の家に泊めてもらうのだが、今回はクリスマスを満喫するためにわざわざホテルを取っていた。それは買い物を楽しめるSOHOエリアからも、ヒップなローワーイーストサイド、中心エリアのミッドタウンからも離れた少し不便な場所にある。少し前に撮影で訪れたときに一目惚れして、いつか特別なときに泊まりに来ようと決めていた場所だった。そのホテルは今まで泊まってきたどのホテルとも違う、強い個性を持っていた。外観はよく見るシンプルな造りだが、一歩中に入るとメインロビーには黒と白のタイルの上に真っ赤なカーペットが敷かれ、天井と柱はダークブラウンの木目。大きすぎるといってもいいくらいの真っ白なシャンデリアとミニマルな暖炉。テイストもテクスチャーもごちゃ混ぜになっているのに何故か完璧にマッチしていて、まるでウェス・アンダーソンの映画のセットのようだ。

チェックインをするフロントデスクに着くと、隣には立派なツリー。赤とゴールドを基調としたクラシックなオーナメントと、たっぷりのライトで飾り付けられている。そしてその下には綺麗にラッピングされたギフトたち。改めて「クリスマスの本場に来たんだ」と思った。

メインロビーの隣にあるラウンジに目を移すと、ピンクに塗られた壁に大きな緑のハートのアートがかかっている。その隣にあるバーはモスグリーンと黒のタイルを敷き詰めた床に、同じモスグリーンの壁、その空間にネイビーブルーのハイチェアが並んでいる。随分カラフルではあるけれど、全体のテーマカラーが赤に統一された内装でクリスマスを過ごすのにぴったりだった。

部屋のインテリアはというと、カーテンとカーペット、ベッドボードも赤。ダークブラウンの床に、壁はスカイブルー。真っ白なシーツが逆に目立っている。バスルームはダークブラウンで統一されながらも、大きな鏡の両サイドに電球をたっぷり束ねた照明が吊り下がっていて、やっぱりドラマチックだ。

夕食の頃にはクタクタになっていたので、ディナーはホテルに付いているレストランに行った。イヴともなると混み合っていそうだが、アメリカではクリスマスを家族で過ごすために地元に戻っている人が多く、普段人気のレストランもこのときは空いていた。珍しく白ワインを飲んでみたりなんかして、私はちょっと特別な冬休みのスタートを切った。

時差ボケで目が覚めたのは朝5時過ぎ。二度寝にトライしたものの上手くいかず、隣で寝ていた友達を起こさないように静かにベッドから抜け出した。外はまだ真っ暗で、携帯のライトで足元を照らしながらバスルームに向かう。東京から着てきた服をまた着て、歯だけ磨いてフィルムカメラを片手に外へ出た。クリスマス当日の朝、街は静まりかえっていた。朝が早いNY7時前とはいえ普段だったら多くの店が開店準備を始めている時間だ。「やっぱりそうか」と小さくつぶやいて、朝日が差し込み始めたタイミングでカメラのシャッターを切る。いつもとは違う、人気のない街の姿になんだか不思議な気持ちになった。

数ブロック歩き回って唯一開いていたのは24時間営業している大型チェーンのドラッグストア。「クリスマスに朝っぱらから1人でドラッグストアに来るなんて、一体どうしたんだ?」という顔をした店員を横目に店内を物色した。特に欲しいものがあるわけじゃないけれど、近所のコーヒー屋が開くまで時間を潰したかった私は、割と長い間そこに居たと思う。アメリカに来たら必ず買うコダックの使い捨てカメラとクリスマスカードを見ながら、ボロボロになっていたネイルに気付いて除光液を買った。

結局どこのお店も開いていないことを確かめただけでホテルに戻った。街中を歩いている人も車も少ない。まるで年末の東京みたいだ。普段なら混んでいる時間帯なのにロビーには誰もいない。私はあの大きなツリーの周りをうっとりしながらぐるぐると回り、それをしばらく独り占めした。チェックアウトまでは部屋でゆっくり過ごすつもりだった。厚手のベルベットのカーテンを開けると朝日がたっぷりと入り込む。夜もムードがあって素敵だったけれど、光を浴びた部屋は一層魅力的だった。壁は更に青く、カーペットやカーテンの赤はより鮮やかになった。濡れたピンクの髪に真っ白なバスローブを着た自分が妙にしっくりくる。

このホテルに泊まると、普段は近所の住人しか入れないグラマシーパークに入ることができるのも、私がこのホテルに泊まりたかった理由のひとつだ。チェックアウトを済ませてからホテルの外に立つベルボーイに声をかけると、その入り口までついてきてくれた。NY唯一のプライベートパークは美しく上品な柵に囲まれ、凛とした雰囲気を纏っている。ベルボーイが持っていた鍵で入口を開けてもらうと、中には丁寧に手入れされた可愛らしい公園が広がっていた。そんなに大きくはないけれど、みんなから大事にされていることが伝わってくる公園だった。ベンチに腰をかけるとリスが目の前を行ったり来たりして冬支度をしている。12月だなんて信じられないほど暖かい気候に、クリスマスが真夏にあたるオーストラリアのサーフボードに乗ったサンタのイメージが思い浮かんだ。今夜はロックフェラーセンターのクリスマスツリーを見に行くことになっている。普段の旅では定番の観光スポットは避けているが、今回だけは特別だ。NYのクリスマスの代名詞とも言えるあの巨大ツリーが見られるなんて。

ロックフェラーセンターの最寄りの駅から地上に出ると想像以上の人だった。通勤ラッシュ時のような人混みが数ブロックにわたって続いている。しかし普段は苦手な人混みも今日は特別。子供の頃に行ったお祭りのような気分でワクワクした。実際にフードトラックもあってアメリカンスタイルの縁日みたいだ。周りを見渡すとそこら中にクリスマスの飾りつけがされている。ちょうどツリーの向かい側にあるデパート サックス・フィフス・アベニューでは10階建てのビル全面に施したクリスタルライトによる盛大なイルミネーションショーが行われていて、音楽に合わせてビジュアルが変わるたびに大きな歓声が起きた。いろんな色をしたライトに照らされたみんなの横顔はキラキラしていて、それを見ているこっちまで笑顔になってしまう。そしてその隣のセント・パトリック大聖堂には、クリスマスミサをひと目見ようと多くの人が集まっていた。まるでクリスマスのテーマパークのような光景に、私の気分は一気に高まった。

目当てのロックフェラーセンターのツリーの周りにはものすごい人だかりができていた。近くで見るのは諦めて遠くから写真を撮っている人も多い。20メートル以上ある本物のもみの木に5万個ものLEDライトが付いたツリーは、離れた距離から見ても圧巻だった。私は子供の頃に戻ったように興奮して「本物だぁ!」と小さく叫んだ。私がクリスマスを好きな理由は、このトキメキにあると思う。1ヶ月ほど前から世界中が色めきだって、ツリーの飾りつけから始まり、大切な人を想ってプレゼントを用意したり、家族が集まったり……こんなに愛に溢れて温かい気持ちになれるイベントは他にない。そして、実際にここに集まっている人たちの表情は穏やかでやさしい。

名物のスケートリンクでツリーをバックにアイススケートもしてみたかったけれど、あまりの人の多さに諦めてディナーを予約していたレストランへ向かうことに。駅に向かって歩いていると、これからツリーを見に行くであろうたくさんの人たちとすれ違う。みんないい顔をしていた。いつもは殺風景な地下鉄もどこか柔らかい空気が流れていて、やっぱりクリスマスの持つ力はすごいなと思いながら電車の窓に頭をもたれかけた。今夜からはローワーイーストサイドに戻るけれど、せっかくミッドタウンまで来たのでこの辺りの大人なレストランに行く。駅から歩いて5分ほどのその店は、照明をしっかりと落としていてシックな雰囲気だ。私たちを入れても6組ほどで満席のこぢんまりとした店内の年齢層は高く、上品にめかし込んだ彼らを見て少し背筋が伸びた。長い間外にいたことで冷えた体は、ウェルカムシャンパンによって徐々に温められていった。

大好きなクリスマスをNYで過ごす、という子供の頃からの夢を叶えることができて、私は胸がいっぱいだった。ホテルもイルミネーションショーもロックフェラーセンターのツリーもすごかったけれど、何よりも「自分に夢を叶える力がある」と感じられたことに、私は1番感動していたのかもしれない。帰りの車から見えるNYはやっぱり静かだった。こんなにしんとしている姿は初めてだ。一見悲しそうに見える人のいない街並みだけれど、その理由がクリスマスによってもたらされる愛からくるものなんだと思うと、それもなんだか美しく感じられた。今夜は子供の頃に観たあの映画を観よう。大好きなクリスマスはもう少しで終わってしまうけれど、この旅のおかげでこれから先のクリスマスがもっと特別なものになる、そう思ったら寂しくはなかった。友達の家まであと少しのところにある交差点。信号待ちで向かいのビルの暗くなった窓辺に小さなツリーが飾られているのに気づいた。ゆっくりと点滅しながら色を変えるそれを見て、自然と笑みがこぼれる。徐々に加速していく車の中で、来年は本物のもみの木のツリーを私の家にも飾ろう、と決意した。

 

最後に、素敵なストーリーを寄せてくれた大屋さんに、バックパックに対するQ&A2つ投げかけてみました。

Q.旅のときにバックパックを愛用しているのはなぜですか?
空港内も含めて旅では歩くことが多いので、バックパックが助かります。両手も空くし、意外と量が増える機内持ち込みの荷物も、バックパックだとショルダーなどに比べて腕や肩が痛くなったりしないので楽です。

Q.旅の際のバックパック選びのこだわりや条件を教えてください。
シンプルでクラシックなデザインのものを選ぶと大人っぽくなって、いろんなコーディネートにも合わせやすいかなと思います。細かいものを入れられるようにポケットが外に1つは付いているものが好きです。

大屋夏南さんが選ぶ旅にオススメのバッグ

  • 452UOUTDOOR PRODUCTS ¥4,800
    「シンプルでクラシックな形と絶妙な色味が気に入っています。メンズっぽいボリューム感がありながらも、丸みがフェミニンさもあってどんなスタイルにも合いそうです」
  • Text & Photo : Kana Oya
    Edit:RIDE MEDIA&DESIGN inc.

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